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オーストリア・50%条項と各大学の取組(2019年8月30日掲載) 音声読み上げ


大阪大学高等司法研究科 教授 水島 郁子


ウィーン大学では、大学の管理運営を担う大学協議会の構成員9名のうち4名が女性で、女性が議長を務めています。大学協議会と並ぶ管理運営組織である学長協議会(4名)のうち2名が女性で、評議会の構成員も約半数が女性です。

ウィーン大学だけでなく、オーストリアでは、各大学の管理運営を担う上部機関における女性参画が進んでいます。オーストリア連邦教育科学研究省の統計資料(BMBWF(2018), Gleichstellung in Wissenschaft und Forschung in Österreich, Wien)によると、オーストリア全体で、大学協議会では139名中68名が女性、学長協議会では94名中45名が女性、評議会では492名中225名が女性です(2016年)。

大学における管理運営機関への女性参画を可能にしたのが、2002年の大学法(Universitätsgesetz)です。大学法は、その指導原則の中に、男女均等待遇、学業・仕事と育児・介護の両立等を掲げ、大学の任務課題の1つに男女均等待遇と女性活用推進を挙げています。また大学法により、各大学には均等待遇ワーキングの設置や、女性活用推進計画および均等待遇計画の作成が義務付けられ、さらに大学における会議体(Kollegialorgan)の女性比率を50%以上にすることが課されています(なお、女性比率の50%以上への引き上げは2015年改正によります)。大学法の「50%条項」により、大学協議会、学長協議会、評議会のような大学の管理運営を担う会議体では男女の偏りがほとんどありません。各大学で採用を担う人事委員会や教授資格委員会においても、男女の偏りは解消されつつあります。

「50%条項」は私たちからするとかなり大胆な取組にも見えます。連邦教育科学研究省でお話を伺ったところ、オーストリアでもこのような取組に対する反発はなくはないとのことです。そのような反発の声に対しては、男女の偏りの解消は、女性に限った問題でなく、国民全体の平等の問題であることを強調し、認識してもらうことが必要であるとのことでした。

次に、「50%条項」が大学でどのように受け止められているか、各大学でお話を伺いました。良い施策である、条項に賛成するという声が聞かれましたが、同時に、「50%条項」が女性教員の負担になっているとの指摘がありました。オーストリアの教授職位の女性比率は23%にすぎず、その少ない人数で「50%条項」が適用される管理運営組織や委員会の仕事を回す結果、女性教員の研究時間が少なくなってしまう、というのが理由です。この問題を解決するために、ウィーン工科大学は、委員ポイントが一定数に達した女性教員に半年間の研究専念セメスターを付与しているとのことです。

このような課題もありますが、「50%条項」により女性が管理運営組織や委員会の業務に参画していること、とくに採用過程で男性と同数の女性が関与することには、大きな意味があるとの声が聞かれました。大学法によって、すなわち政府や連邦教育科学研究省の主導で、男女共同参画を図った好事例といえます。

「50%条項」は法律上の仕組ですが、大学法が掲げる指導原則や任務課題を受け、各大学では様々な取組を行っています。訪問した大学の取組から、意識啓発にかかる取組と女性研究者育成にかかる取組を紹介します。

ウィーン工科大学

ウィーン工科大学では、男女協働意識啓発冊子(ドイツ語および英語)を作成したり、女子小学生や女子中高生にワークショップを開催したりしています。2015年以降は毎年、ウィーン工科大学女性賞を授与しています。いずれの取組も私には興味深く、参考になりましたが、ウィーン工科大学の担当者にお話を伺ったところ、意識改革冊子やワークショップは大きな効果はなく、費用対効果の面でいえばウィーン工科大学女性賞が優れている、とのことでした。意識改革冊子の読者の多くが男女協働意識を、ワークショップに参加する女子児童・生徒の多くが科学への強い関心をすでに有しているため効果は限定的で、むしろ、男女協働や均等待遇の問題に対して無関心である人や社会の意識を改革することが重要である、とのことでした。ウィーン工科大学女性賞は2015年から始まり、第1回の賞はウィーン中央駅のプロジェクトリーダーに授与され、世間の注目を浴び、工学分野の女性が社会で活躍しているメッセージを発信できたとのことです。

ウィーン大学
ウィーン大学 均等ダイバーシティ部署にて
左から水島、責任者のDr. Sylwia Bukowska、Mag. Kerstin Tiefenbacher

ウィーン大学では、3セメスター連続の女性研究者キャリア育成プログラムを実施しています。1つはプレドク向けのプログラムで、メンター、コーチング、トレーニングで構成されています。メンタープログラムで学生は、自然科学系と人文社会学系をさらに区分したグループに別れて、希望するメンターを教員の中から指名し、助言指導を受けます。メンターは研究面での助言は行わず、学術面の助言、例えば学部独自の問題について助言を行います。次の段階が、コーチングです。コーチングは専門家(研究職)が、キャリアについての助言を、基本的に学生と1対1で行います。メンターとコーチングでは、担当者、助言する内容、方法が、明確に区別されています。最終段階がトレーニングで、学生はプロジェクトマネージメント、リーダーシップ、コンフリクトマネージメント等を集中的に(2日間で)習得します。「FEMAC(Career Development Programme for Female Academics)」は、ポスドクおよびハビリタチオン志願者を対象とするプログラムで、英語で行われることが特徴的です。コーチングとトレーニングを内容とし、とくに後者に重点を置いています。助成金の申請やハビリタチオン試験対策に役立つ等、受講者の満足度は高いそうです。また、このプログラムをきっかけに研究費を獲得する者も出たそうです。


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