【株式会社アシックス】
管理職が無意識の偏見(アンコンシャスバイアス)に気づけば、組織は変わる(2020年6月17日掲載)

3か月前 : 2020.06.17

三浦

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株式会社アシックス
CSR サステナビリティ部長 兼 ダイバーシティ サブリーダー
吉川 美奈子


多様な人材を受け入れて活用(インクルージョン)することが、企業のビジネスや組織の成長のためには不可欠です。アシックスでは、管理職が思い込みを持たずに多様な社員を活かせるよう、「無意識の偏見(アンコンシャスバイアス)」の対処に取り組んでいます。

無意識の偏見とは

「無意識の偏見」は自分が気づいていない物事や人の捉え方です。誰にでもあり、経験則から脳が高速に情報を処理する便利な能力です。「偏見」という言葉から悪い印象をうけますが、山でクマを見た瞬間に「危険だ」と判断して、咄嗟に身を守るのも偏見があるおかげです。

企業の中では、特定の属性とある特徴を結び付けてステレオタイプ化するバイアス(偏見、思い込み)がよくみられます(性別、年齢、子の有無、中途採用など)。 「女性は仕事より育児を優先する」というのは日本人によくある思い込みです。その他には、集団に意見を合わせる同調性バイアス、ある部分を高く評価した人の他の部分も好意的に捉えてしまうバイアスもあります。

管理職が鍵

多数のメンバーと接する立場の管理職が、偏った思い込みで発言や行動をすると、組織全体にネガティブな影響を及ぼすことがあります。管理職には力があり、部下は立場が弱い基本構造があるからこそ、管理職はバイアスに基づいた行動をしていないか常に意識する必要があります。

例えば部長が、「育児中の女性に難しいプロジェクトを与えないように」、「現場を知らない若手の提案は役立たない」と発言したら、どうでしょうか。バイアスの対象である女性や若手はモチベーションが下がり、あきらめや思考停止が起こります。上司の発言から部署のメンバーが同じバイアスを持ちやすくなり、それが組織の考え方になってしまう危険もはらみます。そして、中期的なアサインメント(仕事の割り当て)、育成、評価、組織編制に影響がでてしまい、個人と組織の成長が阻まれます。

上司の思いやりからくる思い込みにも注意が必要です。アシックスは主製品であるシューズを東南アジアの工場で生産しています。僻地の生産現場への出張や駐在に女性を行かせるのはかわいそうだという風潮が以前ありました。短期的には優しい対応にみえるかもしれませんが、中期的には女性社員の育成が制限されてしまっていました。近年では、配慮はしても過度な遠慮はしない方針に変わり、女性社員の現地出張も増え、後輩社員のみならず組織全体の成長意欲につながっています。

管理職が「気づく」「コントロールする」

無意識の偏見の対処に有効なのは、管理職が自身の偏見に気づいてコントロールできるようになることです。フィードバックを受ける機会が限られる管理職には、自分に潜む思い込みを自覚する仕掛けがいります。

当社は4つのステップを踏みました。
① 無意識の偏見だけを扱うのでなく、管理職のスキルの1つと位置付けて、管理職育成能力開発プログラムに組み込む。
② eラーニングツールを導入。全管理職が性別と年齢バイアスの気づきを得る。
③ 無意識に偏見を持たずに部下を活用している社内実例の動画を配信。
④ 昇格候補の人選など、無意識の偏見の影響が大きく出るプロセスに、バイアスの確認を組み込む。

ここでは、eラーニングの組みを取り上げます。
eラーニングは他人の目が入らずに完結できるので、自分に偏見があることを人に知られない心理的安全性が確保された上で、素の自分を出せるメリットがあります。

今回導入したのは、市販の無意識バイアスを定量化する実践型ツールです。
管理職が無意識の偏見を理解し、自らが無意識に思い込んでいることに気づき、コントロールする手法を学びます。日本で多くみられる「性別」と「年齢」バイアスについて、「知る」→「自分が無意識にもっている偏見に気づく」→「コントロールする」を繰り返す構成で、数か月間ワークが続きます。IAT*という偏見を定量化する手法を用いて、自身のバイアスの度合いがわかることもこのツールの特徴のひとつです。(*IATとはハーバード大学が開発した行動特性を客観的に定量化することができるテスト)

実際にやってみると、データによる客観的な視点と、世の中に蔓延している具体例から自分に潜んでいる思い込みに多くの管理職が気づきました。数か月のワークの中で、メンバーに対して無意識の思い込みがないかを意識した上で、面談に臨むという行動変容を起こした受講者もいます。筆者はダイバーシティ推進に関わっているにもかかわらず、「男性は仕事、女性は家庭」を強く結びつけている結果となり、かなり驚きました。まさに「自分は大丈夫」が、一番危ないことが証明されました。振り返ると、育児をする男性社員への施策の必要性をあまり感じていないなど、バイアスの影響が出ていることを自覚しました。

当社の特徴のグラフ (IAT*結果)

棒グラフ:当社回答、折れ線グラフ:他社回答平均
ANGLE®@CHANGEWave

eラーニングの結果から、個人を特定することなく、自社全体のバイアスの傾向も把握できました。当社は体育会気質が残っているので、シニアに好意的な年齢バイアスが強いだろうという仮説を立てました。しかし、実際は意外に若者に対して無意識に好印象をもっている管理職が多く、一方で、無意識に「男性と仕事、女性と家庭」を結び付ける性別バイアスが強く出ました。一歳の子供をもつ社員に海外出張を打診する際、男性社員だと躊躇する割合が20%に留まるのに対し、女性だと50%を超えるデータから、さらに女性活躍を推進するためにはアサインメントを与える時に無意識の偏見をコントロールする働きかけが必要であることが再認識できました。

その他の施策とまとめ

忙しい日々の業務の中で、管理職が全ての場面で無意識の偏見を意識するのはなかなか難しいかもしれません。よって、育成計画、昇格者選出、採用など無意識の偏見が大きく影響してしまう時に、管理職がバイアスを意識化し、あえて他の視点を入れる仕組みができれば、多様な人材が活躍して貢献する組織に変わるでしょう。また、管理職になるまでに多様な人との仕事経験、海外赴任などでマイノリティになる体験、会社以外の人との対話など、物事を違う角度からみる経験を積ませる施策も有効だと考えます。

企業対象アンケート調査報告書

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